統合失調症・抗精神病薬の処方について
使う薬の種類、量、期間など、抗精神病薬の処方には決まりごとがなく、医師が判断してそれぞれの患者さんに合わせ、オーダーメイドで処方します。統合失調症・抗精神病薬の処方について紹介していきます。
処方に決まったマニュアルがない
薬への反応について
どんな薬に、どのような患者さんが反応するかについて、決まった答えはありません。どうして、人によって反応が違うのかも解明されていません。考えられるのは、患者さんの脳のどの部分、またはどの神経伝達物質のアンバランスで統合失調症が起こっているのか、それと薬の作用とがマッチするかどうかで、反応が決まるのではないか、ということです。薬選びでわかっている手がかりは、次のようなことです。
●ある薬によい反応をみせた(よく効いた)場合、その患者さんには、将来もその薬が有効であると期待できます。
●家族のうちの1人が統合失調症にかかり、ある薬によく反応した場合、他の家族が病気になった時も、同じ薬が効果的という期待ができます。薬に対する反応は、遺伝的な要素が関わることが考えられます。
●ある薬を最初に投与したとき、患者さんに適合せず不快感を示した薬は、将来もその患者さんへの効果は期待できません。
アドバイス
患者さんや家族は、どんな薬が、どのくらいの量を使用し反応はどうだったかを記録しておくことをおすすめします。将来、改めて薬の選択をする場合の参考になり、同じ薬を二度試すような無駄が省くことが出来ます。
投与する量について
抗精神病薬が効果をあらわす量は、人によってかなりアバウトであることがわかってきました。神経伝達物質の体内での処理能力(吸収、排泄)は、十人十色です。遺伝的な体質との関係も考えられます。例えば、わずか30mℓのアルコールで酔っぱらう人もいれば、1ℓ飲んでも全く酔わない人がいることと同じです。なので、抗精神病薬の血中濃度が同レベルに達するのに、ある患者さんは10mgで十分なのに、別の患者さんは400mgも必要になる、ということがあります。「薬の適量」だけでなく、個々の「患者さんにとっての適量」も考える必要があります。
●抗精神病薬には、それぞれの薬ごとに治療の適量範囲があります。それより少ない量では、少ないだけ、再発のリスクが高くなります。また、適量範囲を超える薬を服用すれば、治療効果が下がるばかりか、強い副作用があらわれます。
●意識的に、薬の用量を少なくする「低用量戦略」という治療法があります。再発を起こすリスクがありますが、人によっては、副作用が少なくなることによって、従来の性格が表に出てきて、活発になる可能性もあります。
服用する期間
薬に対する体内処理は、人によってかなりバラツキがあるので、効果が出る時間も、それぞれに異なることは十分ありえます。薬を授与されて48時間以内に、劇的な効果をみせる人もいれば、数カ月スパンでゆっくり反応する人もいます。米国のある病院の調査によると、投与を始めてから、最良の改善をみせるまでの平均期間は35週間でした。このうち、半数の患者さんは11週で改善しているので、残りの半数は、かなり長い期間がかかっていると考えられます。
●服用期間は、再発を繰り返す人ほど長くなります。
●患者さんは、年齢を重ねていくにつれて薬の量を減らすことが出来ます。最終的にはやめることも可能です。うまくいけば、60代にはやめられる可能性もあります。
急性期には抗精神病薬が効果的
多くの精神科医は、統合失調症の初期の急性期には、抗精神病薬の治療が効果的だと考えています。急性期に多くあらわれる幻聴や妄想、興奮などの陽性症状には抗精神病薬が最も有効です。症状が出始めた段階で、なるべく早く抗精神病薬の治療を行うと、それだけ回復する可能性も高くなります。早期発見、早期治療は、統合失調症の場合、病気の悪化を防ぐことになるので、最も有効な予防法という研究者もいます。急性期の激しい症状には、鎮静効果の強い薬を使用します。よく行われるのは、1日4回、朝・昼・晩の食後と、就寝前に薬を服用する方法です。これは、1日の薬の量を増やしながら、副作用を少なくするためで、薬の血中濃度を高いレベルで維持させるのに有効です。また、統合失調症の患者さんにとって、睡眠は非常に重要です。深い眠りには、脳の疲労を回復させ、傷ついた脳細胞を修復する作用があると考えられているからです。その為、就寝前には、多めの抗精神病薬(鎮静作用で眠気を促進)と、睡眠薬を合わせて使用することもあります。薬を飲み始めて1~2週間して、睡眠時間が長くなってきたら、治療はうまくいっているといえます。