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統合失調症と脳の構造・機能の変化について

1980年代頃から脳の構造や機能の研究が進み、統合失調症は脳の病気であることが判明しました。統合失調症と脳の構造・機能の変化について紹介していきます。

統合失調症は、脳の病気

統合失調症は、脳の病気です。この考えは、1764年に、ボルタイル氏が「精神病の人は脳の調子をくずしているのである」と記述しているように、古くからありました。しかし、20世紀になって、精神医学界ではフロイトの精神分析学が全盛となり、統合失調症(精神分裂病)は悪しき母親と因果関係があるという病理論が広く信じられるようになりました。この説がくつがえされたのは、20世紀の後半になります。特に1980年代から、MRI(磁気共鳴画像診断)で脳の構造や機能が調べられるようになり、統合失調症は脳の病気であることが改めて確認されました。さらに、90年代に入って脳の研究は飛躍的に進歩したことによって、統合失調症の人の脳の機能や構造が、かなりわかるようになりました。下記より、統合失調症が脳にもたらす変化(欠陥)を紹介していきます。しかし、このような脳の変化は、統合失調症をわずらった人すべてにあらわれるものではありません。

統合失調症による大脳皮質の機能・構造の変化

大脳皮質
人間の脳は、大別すると「脳幹」「大脳辺縁系」「大脳皮質」の三層からなっています。「脳幹」生命活動をコントロールするところです。息を吸ったり、心臓を動かしたりする機能や、自律神経系の司令塔である視床下部もここに属します。脳幹を包むようにしてあるのが「大脳辺縁系」です。別名「旧脳」とも呼ばれ、生命を維持するための食欲や、種の保存のための性欲といった本能行動、怒り、快・不快、恐れや不安などの感情・情動の中枢となっています。大脳辺縁系の周りをとり囲むようにしてある「大脳皮質」(別名「新脳」)は、他の動物とくらべ、人間が特に発達している部分です。「大脳皮質」は、人間との特徴である知的・精神的活動の中心となっています。統合失調症は、この大脳皮質にある前頭葉や側頭葉、脳幹の視床、また大脳辺縁系(基底核、肩桃体など)の、機能や構造の欠陥であると考えられています。

前頭葉の変化

前頭葉は、人間が理解し、考え、創造活動をするための精神活動の中枢です。また、問題の解決法を考え、決断したり、調整したり、善悪の判断をする抑制の中枢でもあります。人間が適切な生活を営むためには前頭葉の働きが必要不可欠になりますが、統合失調症の人の中には、この前頭葉に異変があらわれることがあります。
MRIで見ると、重症の統合失調症患者の中には前頭葉が欠如している場合があります。例えると、歩こうとしても、肝心の足が付け根から失われて歩行不能になっている状態と似ています。こうなると、日常生活はかなり困難になります。
PET(陽電子放射断層撮影)で脳の血流をみると、統合失調症の人は、前頭葉への血流が明らかに低下していることがわかります。前頭葉の活動が低下している状態です。例えると、下半身がマヒした人が、足はあるのに歩けない状態に似ています。人と話をしても、相手の気持ちや言っていることが理解できずに、理解不能な行動をとったりします。

側頭葉の体積の減少

側頭葉には、知覚(聴覚、視覚、嗅覚、触覚など)、現実の認識、記憶力の機能があります。
MRIで写し出すと、この側頭葉の一部が欠けたりして、体積が減り、スカスカな映像になることがあります。この場合は、幻聴が起こります。

大脳基底核の活動の低下

大脳基底核は、知覚の調整をして精神の集中をはかるといった機能があります。
CTスキャンでみると、大脳基底核の活動が低下しているのが見えることがあります。この場合、意識を集中できず、エネルギーを消耗して、疲れやすくなります。

大脳辺縁系の体積の減少

大脳辺縁系は扁桃体等がある部分で、感情や知覚を理解し、分析する能力をつかさどります。
MRIで映し出すと、この扁桃体が失われて体積が減っているケースがあります。大脳辺縁系の機能不全は、前頭葉との関連が断ち切られることにもなり、相手の反応がつかめず、自分の行動が上手にとれないといったことが起こります。

電気生理や神経回路の異常

音や視覚情報の伝達は、電気刺激によるものですが、統合失調症では、脳に電気的な変化が起こることが認められています。また、神経回路の変化も非常に多くなっています。抗精神病薬の影響(震えや運動障害を起こす)によるものもありますが、服薬前にも神経の変化がみられることから、病気によって生まれると考えられます。