統合失調症・抗精神病薬の効果について
抗精神病薬は統合失調症に効果的で約70%の人に症状の改善が見られます。神経伝達物のバランスを整え、脳の障害を回復させると考えられています。統合失調症・抗精神病薬の効果について紹介していきます。
抗精神病薬の高い有効性と作用
ドーパミンの情報伝達を抑える
抗精神病薬は、第1号のクロルプロマジン以降、多くの種類が作られてきました。その後、新しいタイプの非定型抗精神病薬も登場していますが、これらすべての抗精神病薬にはドーパミンの情報伝達を抑えるという共通の作用があます。脳内の神経細胞は、神経伝達物質を使って細胞と細胞の間に情報を伝えていきます。神経伝達物質には、多くの種類があって、それぞれ伝える情報が異なります。ドーパミンは、その中の1つで、体を動かしたり(連動系統)、食欲中枢の働きを弱めたリ、精神作用(大脳皮質の情動にかかわる部分)に関係する情報を伝えます。うきうきした感情を高めますが、それが過剰になると過覚醒の状態になって、イライラしたり、不安感や緊張感が強くなったりします。抗精神病薬は、このドーパミンを受けとる細胞(受容体細胞)にくっついて、ドーパミンを働かなくさせる役割をします。統合失調症に効果的なのは、このドーパミンの働きを抑える作用によるものと考えられています。
その他の説
上記のような、ドーパミンへの作用から、統合失調症はドーパミンの過剰が病気の原因になるという「仮説」が生まれましたが、最近はこの考えを疑問とする研究データも出てきています。ドーパミンを神経伝達物質とする細胞は、統合失調症と関わる脳の部分に密集しているのではなく、またドーパミンの遮断作用が弱い抗精神病薬(クロザピン・日本未発売)でも非常に効果が高いことなど、「ドーパミン仮説」と矛盾する研究データが出てきて、疑問につながっています。抗精神病薬が、どのように作用しているのか、完全には解明されていません。考えられるのは、治療的な効果の多くはドーパミン以外の神経伝達物質、例えばグルタミン酸、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)などの受容体にあるのではないかということです。もしくは、神経伝達物質とは全く関わりなく、抗ウイルス作用など別の働きによる作用も考えられます。いずれにしても、薬の作用の全貌は解明が困難なもので、例えばアスピリンにしても、どう作用するのか正確なところは、いまだに解明していないのが実情です。
抗精神病薬は脳の障害を回復させる
詳しい作用は、はっきりしていなくても、抗精神病薬が脳の障害を回復させ、症状を改善することは確かです。抗精神病薬には、次のような効果があります。
陽性症状を軽減
抗精神病薬は、特に陽性症状に効果的です。中でも、攻撃的な、あるいは奇異な行動には効果が強く、ほとんどの人は行動が穏やかになります。一方、幻聴は、完全に消える人もいますが、ほとんどの場合、軽減にとどまります。ただ、常に起こる激しい幻聴が、日に一、二度の静かな雑音程度に減るので、だいぶ楽になります。しかし、従来型の抗精神病薬では、陰性症状(感情の平板化、無関心、思考の貧困など)にはあまり効果がみられず、時として悪化することもあります。
知覚を改善
知覚とは、見たり、聞いたりして入ってきた情報を脳が認識する機能のことをいいます。例えば、周りの人が何かを言っても、統合失調症の場合、耳はその昔を受けとりますが、脳がその言葉を理解できません。抗精神病薬は、知覚を正常にする働きがあるので、現実をそのまま見たり、感じたり、理解できるようになります。
不安感や恐怖感を軽減
統合失調症の患者さんに、抗精神病薬の効果について質問をした結果の報告によると、答えのトップは、「不安感や恐怖感が軽減した」。多くの患者さんがこれを実感しています。恐怖感や不安感は、適応障害の1つで、外部で起こっている出来事に対応できなくなっているあらわれです。抗精神病薬には、こういった精神症状を軽減する効果もあります。
脳の働きの維持、回復
統合失調症になると、脳の活動が非常に低くなります。抗精神病薬には、脳(前頭葉など)の障害を回復させ、社会で活動できるようにする効果があります。すべての人に効果が出るわけではないですが、20%程度の人は、仕事ができ、独立した生活ができるようになるといわれます。
経過を向上させ、再発を防ぐ
抗精神病薬は、症状を改善させるだけでなく、障害が起こっている脳の神経細胞の機能を回復させ、高めるところに本来の目的があるといえます。神経細胞の機能が回復すれば、ストレスからの刺激にも強くなります。その結果、病気の経過もよくなり、再発も抑制できます。同じような意味で、入院日数を短縮し、再入院率を下げることも可能になります。
※なお、薬によって、効果をあらわす症状は異なります。